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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)4020号 判決 1957年3月15日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人正木亮、同河田広、同百溪計助の上告趣意は判例違反及び違憲を主張するのであるが、先ず原判決が所論引用の当裁判所大法廷判決(昭和二六年(あ)第二四三六号、同三一年七月一八日言渡)に違反するかどうかをみるに、右判決の趣旨とするところは、第一審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪の言渡をした場合に控訴裁判所が何ら事実の取調をすることなく第一審判決を破棄し、訴訟記録並びに第一審裁判所において取り調べた証拠のみによって直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは刑訴四〇〇条但書の規定の許さないところであるが、該規定は控訴裁判所が第一審判決を破棄すべき事由が存するかどうかを調査するため事実の取調をしたときは、その取り調べた証拠と訴訟記録並びに第一審裁判所において取り調べた証拠と相俟って、被告事件について判決をするに熟している場合は控訴裁判所自ら判決をすることを許した規定と解すべきであるというに帰すること判文上明白である。そして本件において、第一審裁判所が本件公訴事実を認むるに足る十分な証明がないとして、被告人に対し無罪の言渡をなし、これに対し検察官から控訴の申立があったので、原審は自ら証人満田忠生外三名の取調をした上、これと訴訟記録並びに第一審裁判所において、取り調べた証拠とによって、破棄自判し、被告人に対し有罪の判決をしたものであること記録に徴し明らかである。従って原判決は右判例に何ら違反するところはないものというべく、所論判例違反の主張部分は採るを得ない。又所論のうちの違憲の主張は、右無罪の言渡をした第一審判決を、原審が事実誤認の過誤があるとして破棄しながら第一審裁判所に差戻し又は移送することなく、刑訴四〇〇条但書の規定により自判して被告人に対し有罪の言渡をしたのが違法であるという訴訟法違反の主張を前提とするものであるところ、同規定の趣旨は上述のとおりであって、所論はこれと反対の見解にたつものであるから違憲の主張は其前提を欠くものというべく採用に値しない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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